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翻訳会社で15年以上さまざまな業務を担当してきた筆者が、業界の最新の事情などについて思うところを書いていきます。
オリンピックと言語
4 年に一度のスポーツの祭典、オリンピックが始まりました。趣向を凝らした開会式から、日本人選手のメダルへの挑戦を見るためテレビに釘付け、という方も多いのではないでしょうか?

今回のロンドン・オリンピックは 204 の国や地域から約 1万500 人が参加する一大イベントとなっています。これほど多くの国から選手が参加していますので、選手の言語数も非常に多いはずです。

もちろんスポーツは言葉の壁を超えたものですが、開会式、閉会式、競技の説明、競技開始の合図など、オリンピックでは「公用語」が必要なはずです。

Wikipedia を見てみますと、
「大会の公用語はフランス語と英語であるが、フランス語版と英語版の規定に相違がある場合はフランス語を優先するとして、フランス語を第1公用語とする事を明らかにしている。現在は、フランス語、英語の他、開閉会式等では、開催地の公用語も加える場合がある。」と書かれていました。

フランス語が第1公用語というのは、近代オリンピックが、ソルボンヌ大における会議でフランスのクーベルタン男爵によって提唱、決議されたことに深く関係しているものと思われます。

今回のロンドン・オリンピックでは、柔道男子判定が覆る、審判の問題が大きな話題となっています。

男子柔道66キロ級準々決勝、海老沼匡選手とチョ・ジュンホ選手(韓国)の対戦や、男子体操団体戦での、内村航平選手のあん馬の採点などです。

審判への抗議は、英語かフランス語で行なっているものと思われますが、かつてのいわゆる「世紀の誤審事件」ではこのようなことがありました。

「シドニー五輪100kg超級決勝で、フランスのダビド・ドゥイエと対戦した際に、ドゥイエが内股を仕掛けてきたのに対して篠原は内股すかしで返した。これに対して、主審と副審の一人はドゥイエの技を有効とした。もう一方の副審は篠原の技を一本と宣告した。山下泰裕選手団監督は、審判委員から審判団の再協議を申し出られたにもかかわらず、フランス語の分からない山下はそれに気づかず試合の継続を許してしまった。結局、試合時間が過ぎてドゥイエの優勢勝ちとなった。試合後、山下泰裕選手団監督及び日本選手一同が猛抗議したが、判定は覆らなかった。」(Wikipedia より)

この件にはかなり大きな反響・批判がありました。しかし、フランス語の堪能なスタッフを置いていたら・・と今さらながら悔やまれます。

言葉って大事ですね。
「ほんやく検定」のメリットは?
前回、代表的な翻訳の資格試験として「ほんやく検定」をご紹介しました。

受験には決して安くはないお金がかかりますので、この検定に合格したとしてどんなメリットがあるのか、気になるところだと思います。

合格者の特典として、JTF 日本翻訳連盟のホームページには次のことが書かれていました。
(https://www.jtf.jp/jp/license_exam/license.html)

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公的な資格証明として活用

「ほんやく検定」は、産業翻訳の業界団体が認定する検定試験です。合格して取得した資格は公的な資格証明となります。履歴書に取得級を記載して活用できます。

「合格者プロフィール」登録によって仕事獲得

2級以上に合格すると、JTF公式Webサイトにある「検定合格者リスト」(JTF会員専用)とJTF機関誌「日本翻訳ジャーナル」に自己プロフィールを登録掲載できます(希望者のみ)。登録によって、JTF加盟の翻訳会社(約150社)から仕事を獲得する機会が広がります。将来フリーランス翻訳者を目指している方には、合格を機に独立する道が開かれます。
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実際、1 級に合格したある方は、トライアルなしでの翻訳案件の打診や、さらにはいきなりの発注(?!)もあったとのことです。1 級合格者は全体の数%しかいないようで狭き門ですが、このように翻訳会社への大きなアピールになることは間違いありません。

わたしの所属していた翻訳会社の社内レビューアのひとりは、このほんやく検定の情報処理分野の 2 級に合格しました。

わたしから見ても信頼の置けるしっかりしたレビューアでしたので、専門分野の 2 級を持っていればかなりできる人材だと測ることができます。

翻訳者を目指している皆さん、「ほんやく検定」の受験がいかがですか?
わたしも応援しています。
翻訳の資格試験を受けるべきか?
日本では翻訳の国家資格というものはなく、民間の翻訳の資格試験もあまり重要視されていませんでした。

むしろ翻訳者を目指す人は、翻訳会社各社にコンタクトを取り、トライアルという翻訳の試験を受けて合格すれば翻訳の仕事が入ってくる、という流れででした。

しかしながら手当たり次第にトライアルと受けてもなかなか合格しない、不合格の理由も教えてくれない、という状況で、自分の実力がどのくらいなのか分からない、といった方も多いかと思います。実際のところ、トライアルの合否は、翻訳会社、またトライアル添削者との相性も多分にある、とわたしは思っています。

以前、こちらのブログに、「いつ翻訳会社のトライアルを受けるべきか」という記事でこのようなことを書きました。

「一度不合格になってしまうと、一定期間はその会社のトライアルは受けられないというのが一般的ですので、応募先の選択肢を減らさないためにも、トライアルには万全の態勢で臨みたいものです。3社くらい受けて1社も受からないようであれば、いったんトライアル受験はやめて、勉強に専念するほうがよいでしょう。」

そこで、何度不合格になっても問題ない(良い意味で後腐れがない)、しかもいまの自分の実力がわかるという点で、わたしは翻訳の資格試験をお勧めします。

翻訳の資格試験はいくつかありますが、JTF(日本翻訳連盟)の「ほんやく検定」は翻訳会社 150 社以上が加盟しており、検定合格が翻訳者への近道となる試験だと思います。

レベル構成は基礎レベル(4級と5級)、実用レベル(3、2、1 級)があり、4、5 級は合否判定、実用レベルは翻訳の完成度に応じて、1-3級または不合格を判定します。
実用レベル(3、2、1 級)には出題分野が 6 種類あります。
(1)政経・社会、(2)科学技術、(3)金融・証券 (4)医学・薬学、(5)情報処理、(6)特許

受験はインターネット受験ですので、自宅で、またはどこからでもネット環境と PC さえあれば受験できます。毎年 2 回、 2 月、7 月に試験が行われます。
SNSの翻訳??(その2)
(前回から続く)

前回、トヨタ自動車が「SNS翻訳センター」というものを設置したというニュースをご紹介しました。
わたしがこの記事を興味深く読んだ理由が 2 つあります。

ひとつは、この翻訳分野は、マニュアル、仕様書、契約書、ヘルプではなく SNS、つまり瞬時にやり取りがなされる形態のコミュニケーションの翻訳であること。

そしてふたつ目は、日本人が「国際標準語」である英語で SNS を行うのではなく「日本語」で行うことを前提として、英語の話者との間に「翻訳」を介在させていることです。

これまでは日本人の「国際化」の課題として、英語を学んで上達し英語で海外の支社、協力会社、またはクライアントとのコミュニケーションを図らねばならない、というものでした。

しかし今回のトヨタの試みは「日本人は英語が上手にならなければならない」という決まり文句的なところを「卒業」しているという点で非常に痛快です。

わたしも経験がありますが、英語での文章作成、メールでのやりとりは日本語と比べかなり時間がかかりますし、できれば誰かが代行して日本語で作成した文書を英語に訳してくれればもっと別の重要なことに時間を費やせるのに、と思っていました。

不必要に英語でのコミュニケーションに四苦八苦して時間を費やすよりも、日本語→英語の変換は、ツールなりシステムなり専門家に任せて、もっとアイデアとかエンジニアリングといった専門分野に時間を費やすほうが得策だ、とトヨタは判断したのだ、と推測します。

また、日本語と英語は文法的にも全く異なる言語であるため、英語と欧州言語のような親和性が少なく、日本人による、英語でのコミュニケーションが一筋縄ではいかないということも理解していると思います。

「SNS翻訳センター」には専門のオペレーターがいるそうなので、この分野で採用される人材もいるわけで、翻訳業界にとっては朗報と言えるかと思います。

今後、翻訳業界にとっては、海外にビジネスを行うが、英語でのコミュニケーションは最小限にしたい、という会社にサービスを提供するビジネスモデルの可能性が出てくるのではないかとわたしは推察しています。

SNS のように瞬時の双方向コミュケーションの翻訳メソッドを確立するのは大変ですが、たとえば、製品のファンクショナリティー(機能)テストを海外で行い、そのフィードバックやバグレポートをメールベース、エクセルベースで英語で受け取り、翻訳者が介在して英語を日本語に訳したものを日本に送る、という会社もあります。

誰もかれもが英語が得意なわけではありません。現在の日本での英語教育では、バイリンガルになれないのは明らかです。特に理系のエンジニアの方々は、英語よりも(英語に煩わされずに)専門分野で能力を発揮したいと思うはずです。そのような分野でお手伝いするのも翻訳業界の役割だとわたしは思います。
SNSの翻訳??
今週は翻訳関連のこのようなニュースに注目しました。

トヨタ自動車、「SNS翻訳センター」を設置

トヨタ自動車(以下、トヨタ)は、日本人社員と、トヨタの海外事業体の外国人社員とのソーシャルネットワーク(以下、SNS)による、グローバルなコミュニケーションの活性化を目的として、7月10日に「SNS翻訳センター」を設置する。

 この「SNS翻訳センター」は、2012年1月に稼動開始したトヨタの社内SNS「TOYOTA Chatter」に設置し、7月末までトライアルを実施したのち、8月より本格運用を開始する。

(毎日.jp:http://mainichi.jp/select/release/news/20120710p0400e017022000c.html)
(2012/07/010)

「SNS翻訳センター」はこのような仕組みになっています。
1. コンピューターによる自動翻訳にトヨタの専門用語、表現を組み込み、チューニングしている。
2. 加えて自動翻訳が不十分な場合、専門のオペレーターが手動翻訳を行い、オペレーターが修正した語彙や表現をデータベースに組み込んで翻訳の精度を上げる。

「TOYOTA Chatter」は現在英語でのサービスですが、「SNS翻訳センター」を加えて、日本と海外事業体とのコミュニケーションをさらに活性化させ、迅速な情報共有と意思決定を促進させる目的だそうです。今後、対応言語の拡大や、SNS以外への適用を検討していく予定とのこと。

少し長くなったので、次回、このことに関する所感を述べたいと思います。

(次回に続く)